前夜

飛行機の中でwの意味についてずっと考える。


出発の前日にボスから電話がかかってきて、
あと1時間くらいで飛行機に乗る段になって
やっとメールを受信できたから、今からだと
もう手直しをする時間がないと伝えられて。
ほとんどパニックになりそうだったけれど、
自分の準備不足の具合からして、たぶん
そんなことになるだろうと想像していた。


すぐに父親に連絡して、プリンターを
持って帰ってもらえるように交渉した。
奇跡的にたまたまその日は帰宅できる日で、
学会に行ってる間、貸してもらえることに。
それで新しいインクを買いに行って来て
ネットからドライバをインストールして、
インクを補充して、印刷チェックをした。
本番もさくさく印刷してくれますように。


ボスの電話では、面白い結果は充分あるから
なんとかなるので、もっと安心していい。
あとは、そこから何を主張できるのか、
意味についてよく考えるようにと言われた。
つまり、今はまだconclusionが足りないと。
恥ずかしいけれど正直に、何が言えるのか
自分でもよく分かっていないと告白すると、
最初のうちは、どんなことを主張していいか
そのセンスみたいなものは分からないもので、
これから徐々に分かって来るはずだろうと。


たとえば、こんなことを主張できるよね?
と言われたことが、当たり前みたいなことで
そんな単純なことでもいいのかと驚いた。
でも、たぶん今までにない新奇なことなら
主張してもいいのかなとだんだん思えてきた。


これからどんな解析をするつもり?と聞かれ、
まだ解析も足りないのか!と内心相当焦りつつ、
解析が命なんだよという先輩の言葉も思い出し、
考えていた手法をいくつか早口で説明した。
それらも良さそうだけれど、意味についても
もっとよく考えるようにと繰り返し念を押され、
向こうで会うまでにどう作り上げてくるのか
楽しみに待っているよと。プレッシャーを
感じつつも、絶対に間に合わせるぞと銘じた。


飛行機の隣の席でせっせとノートに書き込んでる
野澤を羨ましく思いながら、自分はちっとも
考えがまとまらず、心ここにあらずという感じで
ぼやっと曇った思考でほとんど無為に過ごした。
試しに野澤の結果について説明してもらったら、
しっかりしたストーリーが出来上がっていて
plausibleな解釈もあって感心してしまった。
はずれ値のexclusionについて、ずっと前に
先輩から聞いたことを教えてあげたら、
新しい結果が出たとかで、二人で喜んだ。


ロボットが激しく動き回る映像がちらちら見えた。
天井にぶら下がった画面で"TRANSFORMERS"
をやっていたけれど、映画を観る余裕はなく。
韓国風お粥は指で塗るのりみたいで微妙だった。
朝食のときに、野澤がヨーグルトをくれた。
パッケージの絵が古めかしい。美味しかった。


出発前にポスターがきっちり仕上がっていて、
印刷したものを持って、心穏やかに学会に赴く
という当初の目論見はもろくも崩れてしまい。
前回の苦い教訓は活かされず、またもやぎりぎり
背水の陣になって、心は晴れずに心配だらけ。
でも、苦しいときの方が生きている実感だけは
むだに強かったりするかもしれない。
無事に帰って来た今だからそう書けるんだけどね。