なぜか忘れた頃に嗅覚が

Object recognitionと聞くと、visualのことだ
とすぐ思ってしまうというのはよくないかもしれない。
という反省をこめたわけではなく、後付けの解釈で
それは後からそう思ったので、なんでodorについての論文
なんて読もうと思ったのか自分でもよく分からない。
紅茶に浸したマドレーヌの匂いを嗅ぐといつも、
というような話は興味があるけれど、それではない。


M1のときは野澤くんや隣の研究室の人と一緒に
嗅覚の授業に出ていた。マニアックな授業だった。
実際は、olfactory and vomeronasal system
とでも言うべき内容の授業で、vomeronasal organ
日本語で鋤鼻器官と言う。聞いたことない単語だった。
動物だとフェロモンの受容をしているところらしい。
くどいようだが、とにかくマニアックな授業だった。


レポートを出しさえすれば授業に出なくていい
というので、だんだん目に見えて人が減ってゆく。
一度、小俣さんの先輩にあたる方がゲストでいらして
アフリカの湖にいるcichlidの生態の話を聴いた。
シクリッドというのはカワスズメ科の魚の総称で、
鮮やかな体色を持つものが多いのだけれど、ある湖では
透明度が極端に低く、体色では個体識別ができないはず、
その代わり、匂いによってmatingしているのではないか。
というような話で、現地調査の写真とか、なぜだか
わからないけれど慣れると雌雄の判別ができるようになるとか、
広い湖の場所ごとに分化した違う種類のシクリッドがいて、
遺伝的に調べても湖ができてから急激に進化が促進したので
進化の実験場として貴重なデータがたくさん取れると言う。


その特別回以外は、嗅覚、味覚とフェロモン受容の講義で、
後半はゼミ形式になって、学生による論文紹介になった。
そうしたら、僕ら三人以外は(たぶん)全員がその先生の
研究室の人になって、研究室のゼミにお邪魔してる雰囲気で、
でもこれ生命系専攻の学生対象のれっきとした授業だよね、
他の学生もう誰も来てないけれど、という状況になった。
確かに当然ながら内容が高度で、olfactionもしくは
vomeronasalに関する論文ならなんでもいいということで、
特に遺伝子系の話になると、in site hybridizationって何?
とか、分かりませんと言ってそのとき説明してもらったけれど、
やっぱり忘れてしまった。いろいろ技法があるということ。


レポートはシクリッドの論文を読んで書いた。


探したらレポートと提出したときのメールまで残っていた。

O先生


今学期、生体物性学特論を受講しています
********専攻の○△□×と言います。
他のテストやらゼミなどいろいろなものに追われてしまい、
かなり遅くなりましたが、レポートをお送りします。


同じ研究室の野澤君や、隣の研究室のMさんとともに、
最後まで講義に参加させてもらい、勉強になりました。
最後の方のゼミ形式の論文紹介では、
たとえば、in situ hybridizatonが何かも分からず、
私たちのためにわざわざ説明してもらったり、
ほとんどお客さん状態でしたが、分からないなりに、
最新の研究成果を垣間見られてためになりました。


研究室の輪講で、KandelのSmell&Tasteの章を
たまたま、ちょうど担当することになったのですが、
この授業のおかげで、より深い理解が得られました。
また、先日参加した日本神経科学大会でも、特に嗅覚が
一番よく分かるような気がしてうれしかったです。


わりと少人数制でしっかり嗅覚&鋤鼻系の基礎を
教えてくださったことは、とても役に立ちました。
まだ研究テーマをしぼれていないのですが、
今後に活かせればと思います。
どうもありがとうございます。


では、レポートをよろしくおねがいします。
PDFファイルで添付いたします。


二年前にこんなメールに書いたことと
つい今しがた上に書いたことがほとんど
かぶっていて、記憶とは不思議なもの。
本棚の木の匂いからここまで思い出した
のだとしたら、プルースト効果恐るべし。
いや、直接匂いとは関係ないので違うけど。


あのときがんばってまとめたレポートはここに (.pdf)
ほとんど、選んだ論文を単に訳しただけだけれど、
こんな異分野にまじめに取り組んでいたのか。
知らない単語を訳すだけでも骨が折れたはず。


それより、KandelのSmell&Tasteの章を担当した
というのを今の今まで忘れていた。ど忘れとかでなく
完全に記憶の彼方に去っていて、取り出せないくらい。
でも、昨日のゼミで舌やreceptorの話が出たときに
自分は何か知っているはず、思い出せないけれど
かすかにだけどFOKの端緒とも言えないような何かが
あって、気のせいですませるぐらいの幽かなのだけれど
このもじょもじょした感じはなんだろうと思っていた。
嗅覚の授業に出ていたこともそうだけれど、Kandelも
自分が読んで、発表していたのか、意外や意外だ。


あのときから、昨日odorの論文を紹介することが
すでに決まっていたのかもしれない、と言われたら
そんなこともあるかもしれないと納得したに違いない。
しかし、なんでこのタイミングで嗅覚なのだろう。
どういうつながりがあるのか、いつか分かるのかな。