時間のこと。でも前置きが長すぎて、熱

昨日は書きかけで、そのまま電気も点けたまま寝てしまった。


時間のことを書こうとしたのは、ここ最近、
精密な時間(と言ってもミリ秒くらい)の測り方を
調べていたのもあるけれど、それよりすこし前に
時間が一方通行である(時間の矢の)問題に対する
量子力学的な解法、という論文(abstract, PDF)を読んだから。
それが、Physical Review Lettersに載ってた。
(Wired Vision, Gurdian Science Blog)


Phys. Rev. Lett.に載ったんだからちゃんとした論文だろう。
著者はNatureに載ったこういう研究(abstract, PDF)もしてて
量子測定理論とか量子情報理論と呼ばれる分野の専門家。


説明を書き出したら終わらなくなりそうで躊躇しているのと、
他にもっと適切な解説がいくらでもありそうなので、
ごくごく簡単に紹介するにとどめることにする。


ほとんどの物理理論は時間反転(T)対称性を持つ。これは、
時間tを−tに変えても方程式の形が変わらないという意味。


ちょっとわき道に逸れると、物理でよく出てくる他の変換に
荷電共役変換(C)とパリティ変換(P)というのもあって、
Cは粒子を反粒子と交換し、Pは空間反転の操作を表す。
それで、CPT定理というのがあって、CPTの3つの変換を
同時に施しても物理が不変であると考えられている。
歴史的には組み合わせずにそれぞれ不変だと思われていたけど、
K中間子の崩壊現象がCP対称性を破っていることが見つかる。


下の霧箱は、K中間子発見の報告。(CP破れの発見ではなく。)

G.D.Rochester & C.C.Butler, Nature 106, 885 (1947)


ここで、CP対称性が破れていて(実験事実)、なおかつ、
もしCPT定理が本当なら、T対称性も破れていることになる。
このCP対称性の破れを、クオークが6種類あると予言して
説明できたのが小林・益川理論で、ノーベル賞を受賞した。
(もっと詳しい説明は、たとえばKEKのこことかに。)


時間反転対称でない物理のもう一つの事例は
熱力学の第二法則で、エントロピーの増大則である。
冷めたコーヒーを置いていたら自然にまた熱くなった、
というようなことは現実的にはほぼ起こり得ない。
必ずエントロピーは増えるので、言い換えれば、
エントロピーが増大する方向として時間が過去から
未来に向けて流れていると解釈されるのかもしれない。


これに対してマクスウェルの悪魔という思考実験があって、
どういう実験かというと、箱の中に気体が入っていて
まん中にしきりがあって気体がわかれている。
最初はどちらも同じ温度の気体が入っているのだけれど、
しきりに空いた小さな穴の近くに変わった悪魔が棲んでいて
気体分子が穴を通過しようとする動きを見張っている。
そして、動きの速い分子だけを箱の一方に通し、動きの遅い
分子は箱のもう一方にのみ通すという交通整理をしている。

すると、箱の中の一方には熱い気体が集まり、もう一方には
冷たい気体が集まる、つまり、2つの部屋に温度差が生じ、
一見、第二法則に反する結果が起こっているように見える。
あ、重要なことを書き忘れてた。この悪魔は仕事をしない。
(通常の意味では仕事をしてるけど、ああもうややこしい。)


それで、みんなこのパラドックスに頭を悩ませ続け、
100年以上経ってから、やっと一応の解決を見た。
悪魔が記憶を失くすときに熱が発生する!のだ。
すなわち、悪魔は分子の速度を観測して記録し、
それを元にその分子を通すか否かを判断するが、
実はその記録を消去するときにコストがかかる。
だから、悪魔の頭の中にあるメモリーも含めた
系全体のエントロピーとしては増大しているので、
熱力学の第二法則に反しない。ひとまず安心。
そのかわり、(元?)パラドックスのおかげで
統計力学情報理論との関係の理解が促進した。


というわけで、第二法則は健在なのであって、
エントロピー増大則が時間の方向性を保証したとしても、
それで時間の矢の問題が解決されたわけではない。


はあ、まだ話の本題(量子力学的な時間の矢)
に入れていないのにすでに疲れてしまった。
書きたいのはこの先なのに。まだたどり着けぬ。
昨日より前進したけど、前書きで力尽きた。


というか、悪魔の話なら、Wikipediaなんかが
かなり充実してるので、そっち読んだ方が早いし
正確でなおかつもっと詳しくていいかも。
Maxwell's demon (en:Wiki)
竹内薫の『熱とはなんだろう』もオススメ。


寝て記憶整理しよう。熱、出そう。