時間が逆に流れたことなんて覚えてない

もちろん昨日の続きを書こうと思ったのだけれど、
Phys.Rev.Lettの解説記事がすごく分かりやすいので、
A Quantum Arrow of Time
元論文と合わせて、これ読んでください。


でも、それじゃあんまりなので、かいつまんでみる。
時間を遡ってエントロピーを減少させてもいいけど、
それが起こったという何らの「記憶」も残らないので、
原理的に、それが起こらなかった場合と区別できない。
だから、時間が逆に流れることはない、のだそうな。
騙されてる?問題がすり替えられてる気がするよね。


だけど、上の説明だとどこが量子力学なのか
わからない。それは僕がちゃんと理解してないから。
エントロピーが増えたかどうかを知るためには、
観測する必要があって、量子力学的な観測の場合、
系に影響を与えずに観測することはできない。
だから観測自体も系に含めて考える必要がある。


ボブがアリスに量子暗号を送るとしよう。
アリスがその暗号を解読(観測)して、
その結果(観測結果)をノートに書き写す。
当然、アリスとノートのエントロピーは増える。
ここで、ボブの視点に立つと、なんとボブは
量子力学マクスウェルの悪魔を演じられる。
アリスの系のエントロピー増加を感知したボブは
時間を遡ってアリスの頭の中の記憶とアリスの
書いたノートを消してきてしまうことが、
量子力学の法則に反しないやり方で可能である。


すると、アリスにとってはエントロピー
増加しなかったことになるわけだけれど、
その状態は、一度増えたけどボブに記憶を
消されたから増えなかったのか、もともと
増えなかったのかを区別することができない。
だから、アリスにとって、ボブが時間を逆行した
などということは起こっても起こらなくても
同じなのだから、起こっていないわけである。
別の言い方をすれば、アリスにとっては
時間が逆に進んだという証拠が全くない。
だから、時間は一方向に進む場合にしか
記憶に残らないから、時間の向きが定まる。


本当かな。ボブが仮に時間を溯れても、
エントロピーを一切生じさせずに
アリスとノートの記憶を消せるのかな。
そもそも、ボブの記憶が残ってるなら
そっちはどうなってるんだろう。
オレ時間旅行しちゃったぜ、と証言したら
困るよね。まあ、今考えてるのは
アリスの視点だけだからいいのかな。
あるいは、ボブの記憶も飛ぶのか?


まったくもって議論は止まないけど、あとは
みなさまの自由なご想像にお任せします。


量子測定についてはかなり理解が発展してて、
清水さん資料がとてもわかりやすかった。
Modern Theory of Quantum Measurement
and its Applications (PDF)
フォンノイマン・チェーンとかハイゼンベルグ・カット
とか、測定にまつわる諸問題が山積みなんだね。


観測自体を非常に弱くして、量子状態をほとんど
壊さないようにして、その弱い観測を繰り返せば、
強い観測では原理的に得られなかったような情報が
得られるのではないか、というような話もあるらしい。
アハラノフ・ボーム効果で有名なAharonovなんかが
weak measurement theoryというのを提唱している。


些細なことだけれど、PRL論文著者のMaccone氏によれば、
もともとのタイトルは、
"A quantum solution to the arrow-of-time dilemm"
にしたかったのだけれど、

Because of PRL's title policy, the leading "A"
was left out of the title in the published paper.

ということで、冠詞のaが落とされてしまったらしい。
あくまで、ひとつの解釈ということだろうか。
もっとplausibleな説があってもよさそうだもん。


こういうの考えてると、時間がいくらあっても足りない。