Smithくんのこと。トライアルをパスできる選択肢があると

選択肢が複数あって、どれか選べないときに、
トライアルをパスできる選択肢を作ったという
Smithさんのことを教えてもらった。ありがとう。


それはこんなお話。Delayed match-to-sample taskや、
あるいは、dotsがdense/sparseかを判断するタスクで
覚えていなかったり、閾値近くで判断できないときに、
被験者に”自信がない”とそのトライアルをパスできる
というオプションを付けると、動物(サルやイルカ)も
パスの選択肢を選ぶ、という行動実験の結果がある。
ということは、動物も、"覚えてない"とか、
"わかんないよ"というメタ認知を持つということ?


これについての日本語のレビューを見つけた。
TANAKA & FUNAHASHI, “Neurophysiological Approaches
to Metamemory Using Primates” Primate Research, 23, 91-105 (2007).
http://www.jstage.jst.go.jp/article/psj/23/2/23_91/_article/-char/ja
Feeling of knowingなんかも出てきて、
めちゃくちゃ関係するじゃんか、と思った。


ちょうどこのレビューの図2で引用されてる Humpton(2001)
http://www.cogs.indiana.edu/spackled/Hampton_Rhesus_remember_01.pdf
を送ってもらった。SmithはHumptonと似たような研究をしてる。
(Reference [13]にSmithの名前が登場。)


さらに、英語の一般向けの記事を発見。
Monkeys, Dolphin Say 'I Don't Know'
http://www.washingtonpost.com/ac2/wp-dyn?pagename=article&contentId=A17485-2003Nov27


Unsure minds: people may not be the only ones who know when they don't know
http://findarticles.com/p/articles/mi_m1200/is_6_165/ai_113855629/


David J. Smith
http://wings.buffalo.edu/psychology/labs/smithlab/publica.html
はこの周辺のことをまだ精力的に研究されているようだ。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=SMITH+J+D[au]+uncertainty
(カギ括弧でURLのリンクが切れてしまう。)


いくつか論文がフリーで読めるみたい。たとえばこれ。
The comparative study of metacognition: sharper paradigms, safer inferences. (2008)
http://pbr.psychonomic-journals.org/content/15/4/679.full.pdf


これにでてくる図、どっかで見たことあるのに
似てる気がする、と思ったら、これだった。
Kepecs A, Uchida N, Zariwala HA, Mainen ZF (2008)
Neural correlates, computation and behavioural impact of decision confidence.
Nature 455:227-231.
http://pgcn.igc.gulbenkian.pt/lib/exe/fetch.php/cnp-research:zach_mainen:kepecsetal2008.pdf
SOM↓
http://pgcn.igc.gulbenkian.pt/lib/exe/fetch.php/cnp-research:zach_mainen:kepecsetal2008suppl.pdf
ラットも"confidence"を持ってるんじゃないかという話。


この辺の話は、この前岡崎で会った
YさんやKさんも興味を持ってるらしくて、
(このラットの論文はお二人ともご存じだった)
metacognitionってなんなんだろうね、
というようなお話をした。


Smithも、delayed matching-to-sample taskのときと、
もっと単純な視覚心理的なドットの数がdense/sparse判断課題と
どっちの場合も研究してるみたいだけど、
後者は(MT野の)Newsome的な意味でのuncertainty
だからね、というのは分かるけど、
それって何がちがうんだろう?
Smithはあんまり区別してないような気がする。
(それぞれの課題の論文を詳しく読んでないから不確か。)


Newsome的な意味での、閾値に近くて分かりにくいから
confidenceが下がる、みたいな話になると、
最近Scienceに出てた
Kiani and Shadlen. Representation of Confidence Associated with a Decision by Neurons in the Parietal Cortex. Science (2009) vol. 324 (5928) pp. 759
http://www.shadlen.org/~mike/papers/mine/KianiScience2009.pdf
こういうのと同じ話ってことになるんだろうか。


つまり、DMS taskでdelayが長くなって
memory loadが高くて覚えてられなくて課題が難しくなるのと、
ambiguous stimuliが弁別域値に近付いて課題が難しくなるのと、
そのそれぞれのときにconfidenceが下がる
というのは違う意味でなんだろうか?
もちろん、見えているのはbehaviorだけなんだけれど。
行動として区別できないからと言って、
一緒くたにしていいというわけではない。


いきなり、ちょっと話は変わって、
forced choiceとfree choiceの違いについての
実験(シミュレーション?思考実験?)を
郡司さんがやったらしいというのを聞いたので、
どんなのか探してみたけど見つけられなかった。


代わりに、ハトの実験を見つけた。
Ono, K. (2000). Free-choice preference under uncertainty. Behavioural Processes, 49, 11-19.
http://5tanda.jpn.org/?m=pc&a=do_c_file_download&target_c_commu_topic_id=100&sessid=e039a47ab046cf47b32065f2e4a5dbe6
(Abstract: http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0376635700000693
ハトはfree choiceとforced choiceの選択肢を与えられると、
free choiceの方を好むらしい!


同じ著者の日本語記事。
生物における「選択の自由」 : 実験的研究の方法と展開
http://ci.nii.ac.jp/naid/110007001567/


くわしい実験設定の説明
選択行動研究の方法
http://www.komazawa-u.ac.jp/~ono/choicemethod.html
ハトは自由な選択場面と強制的な選択場面のどちらを好むのだろうか
http://www.komazawa-u.ac.jp/~ono/choiceexp.html

強制選択 対 自由選択
1個の選択肢しか現れないのを強制選択、
複数の選択肢が現れるのを自由選択といいます。
一般に動物も人間も自由選択場面を好む傾向がある
という結果がでています
(Catania, A. C. 1975. Freedom and knowledge:
An experimental analysis of preference in pigeons.
Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 24, 89-106.)。


この「人間も」、というのは何を参照してるんだろう?
そこが非常に気になる部分なのに。
ちなみにこの人は、Cataniaの研究室に留学してて
そこでハトの実験を学んだそうな。ばりばり行動主義。


このハトの実験、1 or 4 box(es)実験に似てる気がする。
Illusion of controlで説明しようとしてるから、
ある意味で、ハトのagency(?)について
言及しようとしてるってことなんだろうか。


結局、自信がないっていうのはどういう状態なんだろう。
AかBかを選べないときに、第三の選択肢として
トライアルをパスする(AもBも選ばない)という
オプションがあったときに、3つの選択肢の間の
報酬構造が分かる(確率構造が分かる、とまで言える?)
ときに、メタ認知は必要なのかというような話を
YさんやKさんとしてて、今まで自分が取った行動と
得られた報酬の間の関係を何らかの形で「覚えていて」、
それを参照するから学習できるのだとしたら、
そのself-referentialな部分というか、
自分の中にループができることをメタ認知とか
モニタリングって呼んでるんじゃない?とか。


視覚刺激の解像度が低く(空間周波数が低く)て
ぼんやりしてて何なのか分からないときに、
contextによって見え方が変わるというときの
トップダウンの影響みたいな論文を最近見つけた。
で、とどのつまり、トップダウンっていうのが何なのか、
というところに尽きるんじゃないかという気がするんだ。
トップダウンがどこから降ってくるのかというところも。


Aという選択肢を選ばないときの選択肢を
明示的にBだとかCだとか具体的に与える場合と、
そうではなくて、あくまで「Aを選ばない」というだけで
Aを選ばなかったらどうなるのか明示していないような
(その場合、後者は選択肢間の選択ではなくて、
選択そのものを積極的にするかしないかの選択だから、
ちょっとメタな選択をすることになっているのか?)
条件で比較できるような課題が作れたら面白そう。
あるいは、他の可能性が明示されないような場合。
答えが見えたような気がしたときに、それと同時に
他の可能性を排除できないときに迷うことの意義。
そういうのを分離するには課題を洗練させないと。


自由であればあるほど、迷う余地が残るはず。
迷わせないタスクがいい認知実験かもしれないけど、
mind wanderingみたいに、task-related/unrelated
を問わず、いろんなことを考えてしまうところを
肯定的に解釈できるような方向に持っていきたい。
知りたいところがちょっと変わってきたのかも。