The Scent of Breeze from Oak Copsewood

夜、研究室から出てキャンパスを歩いていたら、そよ風が吹いて、
雑木林の懐かしいにおいがした。


昔、カブトムシやクワガタにすこぶるあこがれていた時代があって、
クヌギやコナラなどが生えている林があると、どきどきしたものだ。
目をきょろきょろさせて、どこかにいないか探してみたり。
あの匂いは、樹液なのか、もしかしたら、土の匂いかもしれないけれど、
独特のにおいがあって、カブトやクワガタがいる場所のにおいだと分かる。


たとえば、小学生の頃、ひと夏飼っていたミヤマクワガタのことを思い出す。
黒光りする見事なアゴを持っていて、すばらしくカッコよかった。
旅行から帰ると、虫かごの天井を食い破って、大脱走していて驚いた。
どこに行ったのか、家中の隙間という隙間を覗き込んでみたのだったっけ。
そして、ピアノの下のうす暗闇で、ひっそりと息絶えているのを見つけた。
生きていたときの虚空をにらむ眼光の鋭さは失われ、物言わず静かだった。
土に埋めてあげたのだと思うけれど、その辺りはほとんど憶えていない。


木立の方からただようあの、ほのかな甘酸っぱいようなにおいがすると、
幹や枝に、葉陰に、うろの中に、彼らが潜んでいる様が脳裏に浮かぶ。
しかし昔と違って、もう探さなくとも、実際に手を伸ばしてみなくとも、
すぐそこにいるのが感じられれば、それだけで十分な気がする。