Nulla in mundo pax sincera, RV.630

実在するオーストラリアのピアニスト、
David Helfgottの半生を綴る映画"Shine"を
この前久しぶりに観る機会があった。
主演Geoffrey Rushのひたむきな好演が光る。


厳格な父親との間の葛藤は見ていて胸が痛む。
何度見ても、苦しくなる。耐えられない。


腕を買われて、高名な女性作家に頼まれて、
家までピアノを弾きに通う、和めるはずの時間に、
作家が語るエピソードとの対比が皮肉すぎる。


その作家が子どもの頃、やはり作家だった
父親が全然構ってくれないので、ふくれて、
ちょっとした悪戯をしでかすことにした。
父親の原稿にインクで落書きしてしまう。


いつも父親に聞かされる言葉をそのまま返し、
「これが私の仕事よ」と高らかに言い放つ少女。
父親は駆けつけ、怒らずに、強く抱きしめる。
そして後に、あれがお前の処女作だったね、と。


それは確かにいい話なのだけれど、
Davidは僕は父親に抱かれたことなんて
一度もないよ、と青ざめてぽつり言う。
懐かしい昔語りをしてしまう作家に
悪気などあるわけもないけれど、
あまりにDavidが浮かばれなくて。


Rachmaninoffのピアノコンチェルト第3番
Piano Concerto No. 3 in D Minor, Op. 30
難解な曲として有名らしい。いわゆる、
超絶技巧と呼ばれる部類に入るのかな。
確かに、どうやったらあんな運指できるんだ。
この曲が彼の人生に闇をもたらすことに。


父親の断固とした反対にあって、
アメリカ行きの夢が絶たれ失意するも、
イギリスの音楽院に招かれ、家を飛び出す。
そこでコンクール用にあの曲を選んでしまう。
弾けるようになって、父親を喜ばせたかった、
という子ども心が強く刻まれ過ぎていたのかな。


弾き切った後にピアノからくずれおれ、
そして、精神を病んでしまう。
schizophreniaだったらしい。
彼にとってどれだけ危険な曲だったか。


もぬけの殻のようになってしまってから、
再びピアノに出遭って喜びを感じ、
生きることに希望を見出すようになり、
と言葉で書いても、なんだか伝わらない。


楽譜の束を抱えてふらふら歩いて、
部屋のピアノは家主がたまりかねて、
たまにはピアノも休めてやらにゃ、
とか鍵をかけて弾けなくしたから。


ピアノのあるレストランを見つけ、
そこで最初に弾く場面が小気味いい。
嫌そうな顔をして、小ばかにしてた
店の主人の前で、リムスキー・コルサコフ
くまんばちは飛ぶ、を弾いてみせるところ。
この映画で、初めてちょっとスッキリする。


あとは、その店のウェイトレスさんの家で
ヘッドホンで音楽聴きながら青空の下、
裸でトランポリンを飛び跳ねてるシーン、
ママ、新記録だよ、1時間以上も跳んでる!
とその家の子どもたちも興奮して見守っていて、
羨望のまなざしを向けている。


この場面で、ようやく何かから開放された
というメタファーなんだろうな、とかいう
つまらない解釈とかどうでもよくって、
とにかく気持ち良さそうに跳ね続けてる、
そのことだけでもう何も言わなくていい。


後に彼の奥さんになる占いの先生(Gillian)に、
求婚するときの言葉がしゃれている。

The stars, Gillian darling. Ask the stars!


と、あらましをつらつらだいぶ書いてしまって、
はたと気付くと、えっと何を書こうとしてたのか、
父親の美しいヴァイオリンがどうなったのか、
Davidが忘れてしまったのはどうしてかとか、
会いに来た父親が今さら抱きしめてくれても、
あまりに遅すぎやしなかったろうかとか、
別にそういうことを書きたいわけでもなくって。


タイトルを見て思い出した、そうだった。
トランポリンで子どものように飛び跳ねるシーンで、
この映画でもうひとつ印象的な曲が使われていて、
これはピアノではなくって、高音のソプラノが
上から響いてくる感じの清んだ歌声の。
前からずっと気になっていて、調べなければ、
と何度も思って忘れていたのを、今回は覚えてて。


Vivaldiだったんだ。いやほとんど知らないけど。
モテット「まことのやすらぎはこの世にはなく」
Elly Amelingという人が歌っているそう。
めちゃくちゃ高い音で、天に突き抜けそうな。


ちなみに、RV.はリオム番号だと。初耳だ。
ケッヘル(K.)やオパス(Op.)とかしか
知らなかった。ということで、Vivaldi
実のトコ、四季ぐらいしか知らなかったりして。


RV.630とRach. No.3はiTMS-USで衝動買い。
あぁアメリカ土産のiTunes Music Card
ついについに使ってしまった・・・。
なんとなく、1曲99セントで買ってみたくて。
ちなみに、Nevada州は収税がかからないから
ちょっとお得だったりするというわけで、
Las VegasのApple storeの住所を借りた(笑)


長年の疑問が解けて、ちょっとよかった。
というのは、RV.630のことだけど。
もうすこし、歌詞とかも調べてみようっと。
にわか音楽ファンの誕生ということかな。
なんだか旋律が頭の中で響いているんだ。