ほっとする瞬間

今日行った講演会は、ちょっと期待はずれ。
プログラムをもっとよく見定めるべきだった。
去年はどんな研究会を開いてどう活動したか、
という報告がほとんどで、そればっかり。
講演会じゃなくて、報告会じゃん、これじゃ。
知りたいのは、その研究会の内容なのに・・・。


発表しているのが、かなり有名な人ばかりで、
なんとか学会だか分科会の委員長、みたいな肩書きで
その学会だか分科会だかの総括ばかりを話す。
せっかくこんなすごい人たち呼んでるんだから、
どうせならその人自身の研究を語って欲しい。


まあでも、収穫がなかったわけじゃない。


お話では、「神経神話」という話題が興味深かった。
昨今の脳ブームは日本だけで起きているわけでなく、
欧米でも似た現象があって、問題になっているらしい。
それで、(なぜか)OECD経済協力開発機構)が
"Neuromyth"という言葉を作って、
いくつか例をあげて説明している。
たとえば、「我々は脳の10%しか使ってない」とか。
広く流布してるわりに、実は科学的根拠がないと。


それに関連して、Kさんの
ゲームをすると頭がよくなるか?
というお話がおもしろかった。
(本当はご専門の時間順序判断の話とかを
聞いてみたかった気もするけど。
まあ、そういうのは、たとえば
ここで読めばいいか。
http://www.moriyama.com/netscience/Kitazawa_Shigeru/index.html


ゲームをすると頭がよくなるのか悪くなるのか、
テレビ局とかから取材されたら、という状況を
想定して、私ならこう答えます、という話。


そこで、確かNatureにテレビゲームをしたら、
視覚認知のパフォーマンスが向上した、
という報告があったはず、と思って、
PubMedで video game AND nature[journal]
と検索すると、おお確かにあったぞ。

"Action video game modifies visual selective attention."
Green CS, Bavelier D., Nature. 2003.

と見つかると。
(というか、PubMedってそうやって使うんだ!
って、驚くところが違うけど、とりあえず
そうやって使うのか〜と感心。笑)


で、確かに、アクションゲームを
よくやる人は、成績がいいらしい。
でも、もともと視覚タスクが得意な人が
ゲームにはまってるだけかもしれないぞ?


そこはNatureなので、ちゃんと調べてて、
そのゲームをやったことない人が
やってもちゃんと向上したと。
さらに、コントロールとして、
テトリスをした人は成績が変わらない。
(うーん、テトリスじゃダメなのか。笑)
だから、アクションゲームじゃないと
どうもだめらしい。


で、ゲーム会社とかの回し者じゃない、
ということをちゃんと証明するために、
論文の最後にちゃんと、

Competing interests statement: The authors declare
that they have no competing financial interests.

という一文で、筆者らは、このゲームソフト会社
などからお金をもらってるとか、そういうことは
一切ございません、ということをきちんと
断っているらしい。
(そうか、この文はどうでもよさそうだと
いつも思ってたけど、利害関係の情報開示、
という深い意味合いがあったのかー。)


で、丁寧に説明して、まだ取材は続いて、
「じゃあ、ゲームをすると脳の血流は
増えるんですか、減るんですか?」
と記者が質問すると、
「ゲーム中の子どもの前頭葉
血流量が減ったという報告もいくつかあって・・・、」
と話は続いて、記者が混乱していく(爆)


でも、笑い話だけじゃなくて、
神経科学者がまずできることは、
現在得られている情報を正確に提供すること、
だということを伝えたいらしい。
確かにそれは必要なことだと思う。


でも、科学者がきちんと情報を提供しよう
としても、ジャーナリズムの方が
捻じ曲げてしまうとおかしなことになる、
というまさに具体例の話が次にあった。
ハイパーソニック・エフェクトのHさんが、
テレビ局に勝手に取り上げられて捏造され、
それに怒って、その番組をつぶさせた、
という一部始終をおもしろおかしく。


ちまたにごろごろ溢れているけれど、
脳を鍛える、とか言ううたい文句だって
どうなんだろうなあ、と思ってしまった。
商業的にはそれでOKなのかもだけど。


あとは、ジャーナリズムとの関係とか、
微妙に興味からはずれてきたので、
報告書をぱらぱらめくっていたら、
こっちの方がだんぜんおもしろい!
受付で受け取ったときには、なんで
こんなむやみやたら分厚い報告書にして、
しかも配布するのかなと訝しがったけど、
意外といろんなことが載ってて楽しい。


去年の研究会のいろんな講義録とか、
対談の記録とか、各種報告書とかとか。
これを読めば、研究会に行かなくても
だいたいの感じがつかめたりするかな、
というと言いすぎかもしれないけれど。
これはちょっとじっくり読んでみたい。
思わぬところで、意外な報酬かも、
つまらない話を我慢して聞いてた(笑)。