泥職人

openlimit2007-09-23

テレビで、泥職人のドキュメンタリをしていた。
どんな職業?と気になって見てしまった。


ジェンネには泥でできた素朴な大モスクがある。
しかし45度以上という気温のため次第に壁がひび割れてしまう。
そこで年に一度、市民たちが協力して壁の塗り替えを行う。


そのときに活躍するのが、100人ほどいる泥職人たち。
彼らは、今は干上がっているが雨季に川になる川底に
溜池を作り、そこにワラを入れて発酵させることで
粘り気のある泥を大量に作り*1、作業の準備を整える。


しかし、ひとつ問題があった。700年以上続けられて来た
伝統あるこの行事だが、今から55年前にある事件が起こった。
街には古くからさまざまな人種が友好的に暮らして来たが、
55年前、二人の長老が壁に泥を塗る技を競い合って対立し、
両者一歩も引かなかった*2ため、それ以来、二つの派に分かれ
別々の日にモスクを半分ずつ塗り替えるようになっていた。


再び、市民が一丸となって参加できる日を待ち望む
機運が高まり、各地区の泥職人たちが集まり話しあう。
最終的には、長老たちの会議に決定は持ち越される。
長老たちの出した結論はどうなったのか?


塗り替え前日、順調に仕上がった泥池でカメラが待ち構える。
本当なら、泥をモスクまで運ぶため市民がやってくるはずが、
定刻を過ぎても何の音沙汰もない。じりじり日差しが照る。
と、そこに鬨の声を上げながら各地区の住民が大挙する。
55年ぶりに、13,000人の市民総出での作業が実現した。


泥を運ぶのは男の仕事。手にした籠に泥を山盛りし、
800m先のモスクまで何往復もして運び続ける。
女の仕事は水運び。放っておくとすぐに干からびる
泥を湿潤に保つため、水を運んで泥に掛け続ける。
運ばれた泥の上で遊んでいるように見える子供たちも
実は仕事をしている。泥と水を足で混ぜている*3のだ。


翌朝4時。モスクの壁にへばり付いている*4男たち。
我先にと泥を塗る場所取りをしている泥職人たちだ。
一番高いところが人気のようだ。取り合いをしている。


朝6時に作業開始。日差しが強まる午前11時になると
泥が乾燥して壁に付かなくなるので、時間との勝負。
市民たちがバケツリレーで泥職人たちに泥を渡して行く。


番組の始めから取り上げられ、塔のてっぺんを塗ることを
夢見る泥職人のハシさん。場所取りでは、希望通りの場所を
キープしていたのに、作業が始まると見当たらなくなった。
探してみると、建物の屋上で市民たちに指示を出していた。
一番目立つ場所を塗りたいという夢を捨てて裏方に徹する。
「私が裏方に回った方が作業がはかどると思ったんですよ」
と答えるハシさん。縁の下の力持ちもかっこいいし立派。


作業は順調に進み、予定通り5時間で無事終了。
老若男女を問わず市民全員が一致団結して
力を合わせてモスクの壁塗り作業に参加する。
間違いなく誰もが充実感や達成感を共有し、
泥まみれになって満足げな表情を見せている。


ジェンネとはアラビア語で天国を意味する。


 

*1:発酵のため強烈な臭いを発する泥は粘性が高い。
気体が発生し、ぷつぷつ音のする泥がいい泥の証拠。
 

*2:自らの種族の誇りのために意地を張り合う長老たち、
武力とかでなく、泥を塗る技を競うところが微笑ましい。
 

*3:でも水遊びを楽しんでるようにしか見えないけどね。
 

*4:その姿は妙に笑える。