お引っ越し

もうすぐ一度田舎に引き揚げるという風の噂は耳にしつつ、
しばらく連絡をとってなかった友人に思い切ってメールしてみた。
なんでそこで思い切りが必要なのか。というと、間が開けば開くほど
気軽に声を掛けづらくなるというか、遠くなってしまうというか。


ほどなくして返事が来て、いやあ、ちょうど今、引っ越しを
してるとこなんだよと。だったらもっと早く言ってくれれば
すぐ駆け付けたのに。いやに水くさいじゃないか。
(そろそろメールでもしないとな、と思ってた自分のこと
棚にあげて、よくそんな風に思えたものだけどさ。)
ここ最近で一番猛ダッシュして息を切らして、そんなに
走らなくても次の電車には間に合ったんだけど、なんとなく
ここは力を振り絞って跳んで行くべきところだと肝に銘じた。


ずいぶん早かったね、と言われて、もちろん、と思った。


荷造りは終わってしまっていたので、掃除を手伝った。
雑誌を積んでいたら、その表紙のインクが床やら壁やらに
ついてしまって取れないんだよね、と笑っている。
(笑い上戸なのは認めるけど、笑ってる場合なのか。)
なんとかしようよ、あ、メラミンのスポンジあるじゃん、
これ使ったら取れるんじゃない? ほら、やっぱり。


一心にぴかぴかに磨き上げた。やばいくらいに。
いい加減手抜きしないので、うざがられてたと思う。
立つのは僕じゃないし、どうせ何かあっても明日
引き渡しのときに大家さんに文句言われたとしても
僕の責任じゃないし、すこしくらい反省した方が
この人のためだと思わないでもないけど、でもどうせ
きっとこれからも掃除はしない人なんだろうと思って、
ちまちましたことを気にしない逞しさは関心するし、
こっちはこっちでせっかく冷やかしにきたんだから
この部屋をきれいにして気持ちよく帰りたいだけ。


結局、邪魔しに行っただけな気もするけど、
ちゃんと玄関入るときに、お邪魔します、
と元気よく断ったからそれでいいことにする。
よく考えたら、お邪魔します、と言った後に、
邪魔しないで、と切り返されたらどうするんだ。
すんません、としゅんんと小さくなっておくか。
こんな小汚い部屋ですみません、本当汚すぎ、
なんてそんなやりとりはもちろん心の中でだよ。


ケータイの充電器とかももう全部送っちゃって、
時計も持ってないから、もし電池が切れたら
100均とかで時計買わなきゃとすこし焦っていた。
飛行機は何時なの、と聞いたら、メールを開いて
確かめたら時間間違えて覚えてたので危険だった。
それなら今夜、イタ電と迷惑メールいっぱいするよ
とからかってはみたけれど、ただからかっただけ。
100均でゆるいキャラクターとかの書かれた安時計を
買ってる姿を想像したら、居たたまれなくなって
イタズラは自粛した。意外といい人かもしれない。


家で飼ってる猫の名前は、ちびななちゃん
と言うらしい。