春の嵐の中で

台風も顔負けの横殴りの雨の中をずんずん歩いて行って、
撮影所があった近くのしゃれたお店に連れてってもらった。
そこの名物があるというので、他のメニューのどれもが
オススメだという声もよそに、脇目をふるのももどかしくて
それを頼もうと最初の瞬間に決めていた。


形が不思議だった。オーマの頭みたいだと思った。
オーマというのはナウシカの〈息子〉の名前なのだけれど、
あんまり知られていないかもしれない。でも別にいい。
強面なところとか、発掘されて見つけられるとことか、
内に強く秘めたるものを持つところが似ている気がする。
そして、最後に崩れ去って跡形もなく消える。
オーマを想いながらがしがし削った。美味しかった。


家に帰ってから鞄の中身を出したら、来るときに
読んでいた保坂和志の『草の上の朝食』が、
――本当は、『季節の記憶』をなんとしてでも
読みながら来なければならないと考えてたのに
本棚のどこを探してもすぐに見つけ出せなくて、
こんなことをしてたら遅刻してしまうと焦って、
とっさに手に取って仕方ないけど代替として
これを読みながら向かうことにしていた――
浸みこんだ雨を吸いこんでページの一部がびよびよ
になってしまっていた。これはいけない、と
急いで干して置いておいたら乾燥はしたけれど
滲みが残った。それはそれで、いつかまた読み返す
ときにその滲みを見て、あの嵐を思い出すだろう。