フェルミ推定

たぶん去年あたりからだと思うけれど、
ある分野においては話題になっているらしい。
そう思われる根拠としては、前のバイト先で
〜〜というのを探してるんですが、どこにありますか?
と何度か訊かれて、一緒に探したりしたから。
でもたいてい見つからなくて、他の人が持って行った
後だったのだろう。


それが何のことなのか、つい最近、知った。
ある流行のcriterionを越えて話題になったから
なのかは理由は分からないけれど、クローズアップ現代
で取り上げられてて、たまたまつけたテレビでその
最後の5分くらいのみ、ほんのラストだけ見られた。
その日のコメンテーターは糸井重里さんだった。


地頭力」というのが、たとえば、就活の場面で
問われることが多くなった、とかいう話だった。
面接なんかで、知識を問うような質問ばかりだと、
それを知っていたかどうかしか分からないわけで、
その人の能力がどれくらいなのか判断できない。
本当の思考力を試したいなら、その場で考えて
1から作り上げなければ答えられないような質問
をするべきなんじゃないか、ということらしい。
確かにそれは実に最もな流れではないか。


つまり、ネットで検索すればすぐ見つかるような
知識をたくさん蓄えておくことは、十分であっても
必要条件ではない、という状況がままあるということ。
もちろん、適切な検索スキルを持ち合せる必要はある。
どこをどうやって探せば目的のものが見つかるか、
という知識自体が往々にしてネックになることも多く、
そこを乗り越えるのが最初の山場の一つではある。
問題は、その後の話というべきかもしれない。


実際に会社が求めてるような人材というのは、
自分で考えることができる、云々とかいう言い方は
たぶん昔からされてきたことなんだろうけれど、
企画などで、既存の1から10を作るのではなく、
未知の0から1を作るところがもっと難しくて、
新しいビジネスチャンスとかを広げるためには、
そっちの方こそできなきゃ意味がないわけだ。


で、会社とかの事情とか、ビジネスのこととか
あんまり今は関心がないから別にいいんだけど、
そういう能力を入社試験で問う方法っていうのが
外資系とかを中心に広まってる、みたいな話で。
まっ○ゅろそふとの入社試験とか、ぐ〜ぐるとか。
どうやるかっていうと、とんち問題みたいだけど、
マンホールのフタはなぜ丸い?だと、まだ知識っぽい
けど、富士山の体積はどれくらいか?とか、
日本にある電柱の数はどれくらいか?とかとか。


上に挙げたような問題で重要なのは、当然ながら
そんなどうでもよさげなトリビアを知っていること
ではなくて、適切な推論を使って答えを導くこと。
はやい話が、数学とかで、答えだけじゃなくて、
途中の計算や思考過程を書け、っていうのと
同じことだと思うんだけど、ちがうかなあ。
正しい正解が一つだけあるというのとは違って、
もっともらしい仮説を展開するってのが違うか。


そのときに使うのが、フェルミ推定と言うらしい。
FermionのEnrico Fermiではないか。
フェルミは、カラスはどれだけ飛び続けられるか、とか、
砂漠に砂粒はいくつあるか、という難問を学生に出したり
してよく遊んでたらしい(いや、まじめな授業だったのかも)。
一番有名なのは、シカゴにピアノ調律師は何人いるか。
逸話で残ってるのは、マンハッタン計画のときに、
核実験場の近くのテントにいたフェルミが、
爆風が起こった瞬間に、ちぎってばらばらにした
紙屑を撒いて、どれくらい飛び散ったかを測ることで、
そこから爆弾の威力を正確に推定して見せたらしい。


核開発の良し悪しはともかく、物理学者が好きそう。
というか、物理をやってる人とか多かれ少なかれ
誰しもそういう計算を日常的にやってたりする。
特に宇宙物理とか地球惑星科学とかの先生たちは
(たぶん、スケールの大きな分野で顕著かも!?)
オーダー(桁数)だけでもいいから求める、とか、
有効数字1桁もないけどとりあえず計算してみるとか、
(って、どっちも同じことじゃないか。まあいいや)
一見むちゃくちゃな計算をがりがりやってみせる
ときがあって、この量はだいたいこれくらい、
こっちはまあこんなもんだろ、みたいに。
それでもっともらしそうな値がちゃんと出たりすると
うおーすげーっ(でも答えも知ってたんだよね)って。


たとえば、
\pi \approx 1
\pi^2 \approx 10
とか。これに比べれば円周率は約3なんてかわいすぎる。
っていう話はよく聞いたよね。
ナカムラさんによると、
「1 = -1 = i = 2 = 1/2 = 任意の定数」という単位系
があったはずだって。その名前が気になるなあ。


で、ある本には、面接とか入試でフェルミ推定
問題が出たときにどうやって解けばいいのか、
というテクニックを解説してたりするのが載ってて、
でもそういうのは嫌いだから、その先は読まなかった。
実際問題、受かりたい人はそれでいいかもしれないけど、
教えてもらうんじゃなくて、0から自分で考えるから
意味があるんだし、そこが一番おもしろいと思う。


別の言い方をすると、どうやって解いたら皆目分からん問題
があって、いろいろ試行錯誤とかしてみても歯が立たなくて、
でもある瞬間にこういう道筋をたどれば解けるはず、とぱっと
気が付いて、やってみたら確かに解けちゃった、みたいな、
知恵の輪でもパズルでももっと実際的な具体的な状況でも
なんでもいいけど、そういう瞬間がどういうものかに
興味があって、0から1を作るという意味で創造的であって
そうは言ったところで、何が起こってるのかちっとも分からん。
そのこと自体が、実はこれからきっとそうやって解かれるべき
問題のひとつなんだよね。