腕が散歩に行っている

すでにだれかが考えていることがすごすぎて、
先人たちに嫉妬する。なんで思いつけたんだよって。
でも彼らも知らなかったことが絶対にあるはずで、
巨人の肩に乗れてるのに贅沢なわがままを言わないで、
そこからだしぬけにジャンプして何かを掴み取りたい。


最近、同時並行してたくさん本を読んでいて、
一冊だけに専心できなくなったという意味では
集中力が弱くなってしまったのかもしれないし、
逆に、わりとぱっぱっぱと切り替えできるように
なったという肯定的な見方もできるかもしれない。
たくさん手出しするといろいろリソースが分散して
だめになるような気がしていたというのはあった。
だけどもうすこし欲ばりになってもいい気がして。


そのひとつ。なんでこのタイミングかは微妙だけど、
The Body Has a Mind of Its Own
というのの翻訳の方を読んでいるとこ。
ラマチャンドランと『脳の中の幽霊』を共著でものした人と
その息子さんが一緒に書いている。母子鷹だって。
まだ2/3くらいまでしか読んでいないのだけれど、
ドッペルゲンガーとか、オーラが見える理由とか、
相当きわどい話もspeculationとして科学的な根拠を
与えていたりして、興味深いと言うことにしておこう。
でも、そういうbeliefを持つということがあるのなら、
そのbeliefを生み出す神経基盤についてなら、きっと
科学の言葉で説明がつくはずという考えは一理ある。


そういうきわものの話はともかく、メインテーマである
ボディイメージ、ボディマップにまつわる広範な話、
さまざま奇妙奇天烈な症例、オリバーサックス的な挿話
の連続は、こんなことも起こりうるのかと度肝を抜かれる。
実はもうひとつキーワードがあって、peripersonal space
が重要らしい。かみ砕けば、手が届く範囲とかいう意味。
それで気になって調べたら、WIREDにこんな記事が。
Mirror Neurons Fire Better at Close Range日本語版


ScienceにRizzolattiのグループの新しい論文が出たって。

Mirror Neurons Differentially Encode the Peripersonal
and Extrapersonal Space of Monkeys
Caggiano V, Fogassi L, Rizzolatti G, Thier P, Casile A.
Science. 2009 Apr 17;324(5925):403-6. (Abstract)


ミラーニューロンと自分からの距離との関係って
重要なパラメータなのに分かってなかったんだ?
ということの方がなんだか新鮮な気がするけど。
Peripersonalかextrapersonalでやっぱり違う。
って、タイトルしか見てないんじゃだめだー。


今日、目を通した論文もうひとつ。
ここのコメント欄で紹介されてて気になったので。

Retention of Memory through Metamorphosis:
Can a Moth Remember What It Learned As a Caterpillar?
Blackiston DJ, Silva Casey E, Weiss MR.
PLoS ONE. 2008; 3(3): e1736. (Full Text)


いもむしがサナギを経て蝶に変態するときに、
はたして記憶は保持されるのかという話。
よく、サナギの中はどろどろに溶けている
というような話を聞いたりするわけだけど、
そんなに溶けちゃったら、記憶は連続的なの?
そもそも、自己同一性は保たれているの?
それとも別の自分に生まれ変わってるの?
ということが気になるわけだ。


よく見るとこの論文、蝶じゃなくて蛾だけど。


でも、虫に自意識があるかどうかを問うのは
とりあえずナンセンスなんで、まあちょっと
脚色が入りすぎてる気もしないではないけれど。
条件付けが変態の前後で保存されるかどうかを
調べたよ、というのがこの論文
結果、保たれていたよ。そっか別人(別蛾?)に
なるわけじゃあないということか。つまらん。


サナギの中身についてはこういうことらしい。

幼虫の体の中には「成虫原基」とよばれる
大人の体のもとがそこかしこに詰まっており、
サナギの間に、どろどろしながら
それら成虫原基を組み合わせて
おとなの体を形作っているのだ、と。


うまく説明できないのですが、
サナギになっていきなりどろどろと
成虫の体を作りだすのではなく、
幼虫の時点で体内に
成虫の体のもとを隠し持っている、
というあたりが、
虫たちがただ者ではないポイントです。

ほぼ日。虫博士たち。


虫の記憶については、上の論文にもあったけど
Mushroom bodies(MB)などの神経系が変態の
どの段階で形成されるかに左右されるはず。
でも、どろどろに溶けてるときっていうのは
シナプス可塑性とかどうなってんだろう。
ていうか、シナプスは保存されているの?
なんだか分からないけれど、というのも当然で
たぶん分かっていないのだろうからそりゃそうだ。


今日のピックアップ英文。

Among holometabolous insects, retention of memory through
metamorphosis may be of particular ecological importance for
lepidopterans, as carryover of larval experience into adulthood
could enable polyphagous species to preferentially oviposit on their
own larval host plant (Hopkins' host-selection principle (HHSP))
[3,5,17–20].


<メモ>

  • holometabolous: 完全変態
  • metamorphosis: 変態
  • lepidopteran: 鱗翅目の昆虫(チョウやガ)
  • larval: 幼虫の
  • polyphagous: 多食(雑食)性の
  • oviposit: 産卵する


自分の生まれた植物を憶えていてそこに産卵するのを好む
というHHSPという法則が知られているらしい。


虫くんも完全変態してすがた形をすっかり変えても、
昔の自分を完全に忘れてしまうわけではないんだって。
さっきはつまらないって書いたけど、とんだ失礼をば。
なんか安心した。