時間的にも空間的にも広い一回

発表はすごく上手く行った。


たくさんの人が説明を聞きに来てくれて、昂揚する。
ポスターセッション1日目のコアタイムだけでなく、
二日目もポスターの前にいたら聞きに来る人がいて、
いろいろ質問されてそれに答えたり議論が盛り上がり、
これから考えて詰めて行かなきゃいけない課題が
たくさん浮かび上がって、とてもためになった。
皆口々に、とっても興味深いね、すごいじゃん、
どうやってこんなの思いついたの?などなど
しきりに褒めてくれて、かなり嬉しかった。
明らかに拙い英語なのにちゃんと言いたいことは
伝えられたという感触を得られたのも大きい。


直前まで発表しに来るかどうか迷っていたけれど、
本当に来たのは正解で、行動して良かったと思った。
もしかして、なんの進展もなかったらどうしよう
と不安だったりしたけれど、まったくそんなことはなく、
この結果の一番おもしろいところがどこで、どこを
重点的に説明すべきかも今回は分かっていたので
はるかに上手にポイントを紹介することができた。
それに、前回は文面を読み上げるだけのような感じで
しかも結果の羅列だけ、というより、それぞれの
結果のグラフの見方の説明のみとでも言うべきか、
で終わっていて、何を伝えたいのかが不明なままで
はっきり言って「つまらない」発表だったのに対して、
今回は、結果のおもしろいところを順番に挙げて
discussionのところで自分の意見をはっきり述べられた
のが大きな違いで、あまり自覚できてなかったけれど
自分の研究内容に対する理解は着実に深化していて、
もちろん同様に問題点にも気付きつつありながら、
つまり、自分が何をやりたくて何をやっているのか
が分かってきているんだとはっきり確信できてきた。
それが分かっていないと困るしかなかったけれど、
実際、今まで確かに惑っていて不安で仕方なかった。
前回の発表の後もちょっとだけ何かを確信したつもりで
でも何らかの要因が拭い去れずにいた感じがしていたのに
今回ははっきり払拭できて、進む道が見えたと思った。


内観はともかく、具体的にどんな感じだったかと言うと、
特に、似たような刺激を使ってほぼ同じようなことに
興味を持っているグループがあって、方法は違うけど
そんな調べ方があったのか!と感心し合ったりした。
脳計測やイメージングが主流になりつつ現在にあって
行動実験だけでこんなおもしろい結果を出せるなんて
すごいよ、と感激されて、握手までしてしまった。
そのグループも今は行動レベルで調べているところで、
これからこの手法をEEGに応用するつもりだと言っていた。
君はそういうのは考えてないの?と聞かれたけれど、
反応時間のばらつきの大きさなどを統制できないと
難しいんだよね、と正直に答えた。そこは苦しい。
(その苦しいところが、実はおもしろいところかも!?)
でも、そのグループはコントロールがきちんとされてて
しかも、知覚するタイミングが刺激間、被験者間で
かなり一致しているというのでEEGでも困らないらしい。
一見、僕の結果と矛盾するようにも聞こえたけれど、
たぶん、ある意味で彼らは「簡単な」刺激を使っていて
何分間も悩むような難しい刺激を対象にしていない
ということかなと思った。それはそれでいいけれど。
そうそう、彼らの使っている刺激はノイズやdistractor
を含まないのに、ひとつのパラメータで刺激の情報量を
統制する方法を開発したということで、すごい。
すごいけど、僕の見たいことと何か違うものを見てる
ような感じがして、それが何であるかよく考えること。
「単純な」object recognitionとの違いについてなど。


それから、僕のポスターの近くは、implicit learning
についての発表が多くて、僕のにもタイトルやabstractに
"learning"という単語が入ってるから同じような括りで
近くにまとまってるのかなとかすこし想像したりもした。
それはともかく、FOKやTOTという用語にも通じてる人達で、
刺激を回転してるときと、止めてから答えるまでの間が
それぞれFOKやTOTと「似ている」ということについて
同意してもらえて、そうするとちょっとほっとして、
やっぱりうれしいものがある。それも束の間だったりして、
「でも、」と続いて、FOKやTOTにはperceptionよりも
もっと高次ななにか、トップダウンが関与しているはずで、
それとの関係性はどうなっているのかと聞かれて窮した。
そこのつながりが分かればもっとおもしろいのにねと。
でも少なくとも、0ー>1の離散的な遷移だけじゃなくて
その中間的な状態があり得ると考えることには確かに同意する、
と念を押してもらえたので、共通了解を得られるというのは
我が意を得たりというか、通じた感じがしてうれしいものだ。
たぶん、彼らがimplicit learningと言っているときの、
"implicit"と呼んでいるものとcriticalに関係していて、
あなたのも"implicit"なものだと思う?と質問されたので、
なんとなく回転を止めたり、角度だけ分かったりするのは
implicitなプロセスかもしれないと答えた。たぶんそう。
それに、たとえば僕のとなりのポスターの実験では、
学習方法の主観評価を聞いていて、その分類がおもしろくて、
guessとintuitionを区別していた。どう分けていたかというと、
ランダムに50%チャンスレベルでやっているのが"guess"で、
どうやってるか分からないけれど、confidenceを持って
やっているというのが"intuition"だと定義していた。
最近やっている翻訳との関係でおっと思ったのもあるけれど、
これについては、僕が測っているsurenessの主観評価と
やっぱり似ていて、直接のつながりはよくわからないけれど、
根っこに何か共通のものがあるのかもしれないと思った。


ただし、一回性というのがどう効いてくるのかは、未知。
普通、implicit learningと言われているものであっても
試行回数が1回ということはないはずで、くり返しがあって、
でもたった一回(何の回数が「一回」かは考える余地あり)
の試行で分かるというのはどういうことなんだろう。


ドイツに来たのも一回だけど、これは幅のある一回。
限りなく広く、厚みと重みと持続のある一回である。