ベルリンからあんみつを経由して、今日あったことを忘れないために

ベルリンのテーゲル空港にはウンター・デン・リンデンから
急行バスのTXL番に乗って予定通り順調に30分くらいで到着。
バス乗り場は前夜に確認しておいたし、万全を期してチケットも
宿のすぐ下にあるUバーンの駅ですでに購入してあったので、
バス停に着いた頃に滑り込んできたバスにスムーズに乗れた。
運転席のすぐ後ろの席に座る。だんだん通勤の人が増えてきて、
というのも、みんな定期を持っているのでベルリナーのはず。
途中で運転手さんが交代して、さっきまで運転してた人は
軽快な足取りで朝の街に繰り出していった。お疲れさん。


行きに立ち寄ったinformationの人に15番窓口に行くように
と教えてもらっていたのでまずはそこに行ってパスポートを
スキャンしたら航空券が発券されたのまではいいけれど、
手伝ってくれた係員さんに窓際の席でいいかしら?
と聞かれて、ベルリンからアムステルダムまでは
1時間くらいで短いから、窓辺で景色を楽しむのも
いいかなと思って、とっさにYESと答えたら、ちがって、
それはアムステルダムから日本への飛行機の座席の
指定についてだったことを発券後に知る。早く言ってよ。
通路側の方が開放感があって好きなのに、失敗。


その後、荷物を預けようと思って並んでいて
やっと順番が来たと思ったら、あなたの券は
ここじゃなくて12番に行って頂戴と言われる。
えーそれもっと早く教えてよと思ったけれど、
さっきの係員さんが早口で何か言ってたような
言ってなかったような気もするので仕方ない。
12番窓口に行くと今度は長蛇の列ができていて、
受付が一人でまかなっていて、しかもその人の
手際がおそろしく悪いらしく一向に列が進まない。
飛行機の2時間以上前に空港に到着したのに
このままじゃ、荷物を預ける前に飛行機出ちゃう
と思い始めた頃に、受付の人数が増えて分散し
新しく来た受付の人はかなり手際がよいので
さくさく列が進み、みるみるうちに列が進む。


列を待っている間、後方の高いところにあった
テレビを見ていてテレビを見るのもしばらくぶりだ
と気付いた。そのとき、すぐ脇にあったカフェで
ご婦人がクロワッサンのお皿とコーヒーを持って
席に移動している途中で手をすべらせて落として
カップを割ってしまった盛大な音がしてふり返った。
でもまわりも対して驚く風でもなく、店員さんが
布巾を持ってきてそれを床に投げて布巾を足で
延ばしてこぼれたコーヒーを大きく拭いている。
布巾を操る足をぴんと伸ばして円弧をくり返し描き、
バレリーナみたいな動きをして片付けていく。


ビジネスクラスと書かれたカウンターだけど
呼ばれたのでそこに行ってあっさり手続き。
荷物は成田で受け取ってね、その控えは
ここに貼っておくからと航空券の裏に
シールを貼ってもらい、荷物を見送る。


手荷物検査でひっかかって、はい腕を上げて
後ろ向いて、次ここに足を乗せて靴を見せて、
とスキャナーで身体を検査されて何も見つからず
OKということでやっとパスして搭乗ゲートに行くと
ちらっとこちらを見た人がいたような気がした。
気のせいかとも思ったけれど、見覚えのある顔が
見えた気もしたのでそちらを見たら、同じ学会に
来ていた人で、学生パーティーで会った人だった。
私のこと覚えてる?と聞かれたのでもちろん、と。
それで待っている間と搭乗するまですこし話をした。


参加したのは初めて?と聞かれたので、
いや、前々回にも、と言いたいのだけれど、
「前々回」をなんと言えばいいのか知らなくて
その代わりに楽して2年前と言うことにする。
でも、その前々回の場所をなぜか毎回ど忘れして
えっとほら、あそこだよ、えーと、ほらほら
という感じで困っていると助け船を出してくれて
ラスベガスだった、そうだったと思い出した。
もちろんカジノにも行ったよと付け加えるけど、
そこで、日本語に騙されてカジノと濁らないで
カシーノと発音するとちゃんと通じたみたい。


ところで何で去年、台湾に来なかったの?
と聞かれて答えに窮する。日本から近いのに。
あのときは出せるものがなかったとかいろいろ
言い訳しても仕方ないし、見たり聴きに行くのは
自由なのだから答えようがないなと思いつつ、
お金がなかったんだよ、と苦し紛れに答えたら、
でもラスベガスに行ってベルリンにも来てるでしょ
と言われて、まあ確かにそれはそうだと思う。


アムステルダムにはどれくらい滞在する?と聞かれて
ほんの2、3時間だけだよ、と答えると不思議そうな
顔をされた。せっかく乗り継ぎで通りかかるのなら
どこかに立ち寄れるような便があればよかったのに。
席は近かったけれど、それ以上話したりはせずに、
それで、アムステルダムスキポール空港までは
あっという間で、さっき乗ったばかりなのにもう
という感覚で着陸してしまった感じ。近すぎる。
さっきの人はひとりオランダ旅行してから帰るのかな。
飛行機を降りたら裸足にサンダルでぺたぺた歩いて
どこかに消えて行くのをちょっとだけ見守っていた。
勇気があってそれに力強い後ろ姿に感心しながら。


予定より早く着いて乗り継ぎに3時間ちょっと。
おみやげもの屋さんをひととおり物色したら
することもなくなって、宿の朝食ビュッフェから
失敬してきたパンをかじりながら腹の足しにして、
柔らかいソファーに深々と腰掛けリラックスしてたら、
気がついたら寝てしまっていたらしく、時間が飛ぶ。
あやうく寝過ごすところで、奇跡的に目が覚めて
走ってゲートに向かったらまだ搭乗中だった。


というわけで、なんとか乗れた飛行機は窓際。
しめしめ、外を眺められるぞと思って窓を覗くと
あいにく翼の上だったりして下がほとんど見えない。
勘弁してくれよ、これじゃ窓際の意味がないじゃん。
となりの銀髪の青年はルモンド紙を読んでるので
フランス系なのかなと思いながら横目に見ていた。
話したりはしなかったけれど、乗務員の人の英語が
通じてないときに何かと手伝ってあげたりしたら
もじもじしながらありがとうと小さな声で言う。
Tokyo & Kyotoと書かれた厚い本を一生懸命
読んでいるので、観光しに行くのかなと想像した。
その本の表紙は、力士がなんか変なポーズを取って
場違いな場所にいる写真で何か間違ってると思う。


離陸してからシートベルト着用サインが消えたら、
空いている席に移動しても良いとアナウンスがあり
立ち上がったときに通路側の席に移動したら、
フランス系の彼は僕がさっき座っていた窓際に移動して
窓の外を眺めたり、窓を閉めてもたれて眠っていた。


洋食はブロッコリーのパスタで和食だと筑前煮で、
乗務員が聞き取りやすいように洋食の場合はパスタ、
和食の場合はチキンとお答え下さいとアナウンス。
旅先ではやはり洋食だろうとパスタを選択する。
飲み物はビールにして、KLMオランダ航空だから
オランダ産のハイネケンの緑色の缶が見えたので
やっぱり好きなハイネケンを飲めるのでうれしい。
パスタのブロッコリーとチーズがこれに合った。


帰りは"The Reader"という映画を観た。
ベルンハルト・シュリンクの原作と知っていて、
かなり前に英語版の本の表紙が気に入って買った。

よく考えたら、これが原作だと思って読んだけれど、
もともと英語じゃなくてドイツ語で書かれたはずで、
それは手が出せないので、邦訳の『朗読者』も買って
もう一度読んだ。映画を観てイメージを喚起されたら
書かれていたことがもっとはっきりやっとわかって
ぐっとくるものがあって、涙がにじんで困ったけれど
機内が暗くなっていたので急いでハンカチで拭った。
ちょうどベルリンが舞台だったので、昔のベルリンや
現代のベルリンが出てきて、見たことあるような場所に
親近感があって、タイムリーなときに観られた。


もうひとつ何か映画でも観ようかとしたけれど
体力が続かず、目が疲れたので眠ることにした。
シャーベットが来たのをすかさず聞き取って
目を開けて食べて、水を飲んでまた眠った。
シャーベットのお代わりはいかがですかという
普段なら食いつくような再巡があったけれど
それは軽く無視して目を閉じたままだった。


着く直前に軽食としてミートパイとフルーツ、
ケーキが出て、やっぱりこの航空会社の出す
食事はなんて美味しいのだろうと感じ入る。


成田でなかなか荷物が出て来ないものだから、
すわロストバゲージかとやきもきしたものの
気長に待っていたらちゃんと出てきて安堵。
待っている間、ちがう麻薬犬が何度か回ってきて
手に持っていた袋の中を嗅いでいくときに
アムステルダムで買った約束されたチーズが
変な匂いがしてたりしませんようにと心に唱える。
もちろん素通りしてくれたので、なで下ろす。


京成の中で寝過ごしそうになりながらも帰宅。
荷物を開けたり、シャワーを浴びたり最小限をして
すぐにゼミに出るためまた家を出て電車に飛び乗る。
家を出る直前に地図をケータイで写メっておいたの
を観ながらちょっと迷いながら、甘味処を見つける。
頼んだらすぐにあんみつが届いたのでいただきます。
いつもより蜜を控えめにして、和のテーストに浸る。
発表は各自の切実な想いを訴えていて耳を傾ける。
打ち上げは途中から、おしら様とサシになって
自分の実験の話をしたら興味を持ってもらえて、
ちびちびやりながら哲学とサイエンスについて
かなり突っ込んだ議論をして、鍛えてもらう。


今日話したことは俺は明日になったら忘れてる
と思うけれど、話せたことはおもしろかった
と言ってもらえて、名前を呼ぶときにさん付けで
呼ばれたのが意外で、言説の過激さとは裏腹に
物腰の柔らかさ、寛大さ、雄大さを感じる。
別れ際に、また今度ゆっくり話しましょうと
声を掛けてくださったので優しさを受け取った。