晴れた日はナリ君日和

それでもわれわれは生き延びるためだけに
生まれたわけではない。ただ5W1H
意味を伝達する文章を書くためでなく、
自分にとって大事なものを大事な順番に書くんだ、
という気持ちはみんなもっているはずだし、
だからこそ詩的なものを大切にしていくしかない
と思うんです。

『どうして書くの?』穂村弘 対談集
長嶋有との対談より)


Cactus Flowerという変わった名前の映画を観た。
なんとなくつけたテレビでやっていたので
ぼんやり見てたらおもしろいので引き込まれた。
最後にクレジットを確認したら、ああこの
どこかで見たことのある顔だなあと思ったのは
やっぱりIngrid Bergmanだった。


帰りに神戸屋のべにあずまハースを衝動買い。
厚めに切って焼いて朝食べたら、外側の
セサミが香ばしくて中のお芋が甘くって。
ハースというのは窯の炉床のことらしい。
最近は朝ご飯がパンのことが多くなった。


ここのところ、allergyを治すには
どうしたらいいんだろうとよく考える。
結論としては、曝露量を増やす以外に
他に適当な対策もないだろうと気付く。
考えるよりも先に自分から突き進んでいって
次第に霧が晴れてまわりが見えてくるまで。


サイドカーに犬』とか、『ジャージの二人
などの著作がある芥川賞作家の長嶋有は、
最近、大江健三郎賞の受賞までしているが、
片や、ブルボン小林の名義でコラムニストを
やっているというのを知って、この人らしい
という感じがした。さらに俳号は肩甲だそうだ。
http://www.ne.jp/asahi/nagashima/kenko/haiku26.html
人生をなめた感じ(これ、褒めてる)と無用な
脱力感がより伝わって、それもいい気がする。


関係ないけど、中学のときドルチェ吉成という
友人がいて、本人がそう称していた気がするが、
それは通学路の通りの反対側のレンタル屋の
隣にドルチェという名前の婦人服屋風があって、
その中に入ったことがあるからだと聞いた。
実際のところ何屋なのかはいまだに謎だが、
少なくとも中学生男子が入る店ではない。
詰め襟の制服を着て実行した勇気を讃えよう。


その頃は、デザートみたいな名前だと思ったが、
むしろドルガバを意識していたのかもしれない
ということに今頃になって気がついてしまった。
気になってお店を調べたら今でもあるようで、
正式名はなんとオートクチュールドルチェだ。
だが、高校になって制服がなくなってから、
彼の私服が派手であったという記憶はない。


そんなにインパクトのあるあだ名がありながら、
しかし、普段はみんな、ナリ君と呼んでいた。
槍と言うときと同じように、リの方で音を上げて。
彼は変わった男で、よく電車のプラットフォームで
目をつぶりややあごを上げて直立不動していた。
何をしているのかと聞くと、目の日光浴だと言う。
自分も真似すると、まぶたがじんわり温まった。


学年が上がってナリ君とはクラスが変わって、
会うことがなくなったけれど、学園祭の時期に
お店を出すから人員を集めているようだった。
どうやって誘われたのかもよく覚えてないが、
気付いたら自分も手伝うことになっていた。
タコス屋をやると言う。学園祭の屋台として
ずいぶん前衛的な選択をするものだと思う。
一度彼の家に集合し、作る練習までした。
そして、タコスの皮を一から作るのは
とても無理だと知った。外では粉が舞う。
皆しょげながらウンジャマラミーをした。


結局、皮は買ってきて温めるだけにした。
トマトやレタスを切って間にはさんで
サルサソースをかけて、できあがり。
U字型に折りたたまれたパリパリした
皮だったので、開きすぎると割れた。
美味しいとお客さんには好評だったが、
ちょっとした問題があったようだ。


火を通さない生の食材を使うことは
食品衛生上禁止されていたとかで、
フレッシュな野菜を使っていたのが
ついに先生にバレて大目玉を食らった。
ちょうどそのとき、僕は抜け出して
部活の方に行っていたので後で聞いた。
自分だけ怒られず、悪いことをした。
あのときもし一緒にいたら、その後も
もうすこし付き合いが続いただろうか。


ときどき電車が来るまでの待ち時間、
太陽があったら目を閉じて日光浴する。
それで、ナリ君は元気かなと思い出す。