異端であることがすなわち健康的である

スプリングスクール三日目。
夜更かししたけれど、なんとか早起きして
1階のレストランで朝食のビュッフェ。
たびたびお代わりして、つい食べ過ぎる。
午前中の予定表では講義が1件3時間で
ミスプリじゃないかといぶかしがっていた。

  • Dr. James Bower (University of Texas, San Antonio)
    What does the cerebellum do, and how does it do it

でもそうじゃなかった。
「君たちが質問して、私が知っていることを答えよう。」
いきなり質疑応答形式でやり始めるらしい。


小脳に関して、ご自身はheresyの立場であると言う。
そういう言葉が日本語にもあるか分からないけれど、
日本語では何と言うのですか?と問いかけたときに、
前の方で健康という声が挙がったので勘違いした。
後で聞いたら、healthyではなくheresyだったらしい。
辞書で引いたら、異端とか異説という意味だった。
小脳ではもちろん有名なIto-sama(原文ママ)がいて、
motor learningやmotor coordinationと言われている。
しかし、Dr. Bowerは運動ではなくむしろperception
ではないかという説を唱えて学会に反旗を翻している。
でもなかなか認められなくて、レビュアーに論文を
ちゃんと引用していないと言われたら、いやいや
あなたの方こそ原論文を読み誤っていると反論したり、
そういうことが続いて今までずっと大変だったらしい。


一度流通してしまった学説に反論するのは容易でないが、
自分はそれが違うと思ったら、そういうことこそすべきだ。
そして一度やると決めたら、とことん追求すべきである。


これほど熱いまなざしを持った研究者はまぶしい。
自分が確かに異端であると認めるところも潔くてよい。
科学者が矜持を持つというのはああいうことなのか。
語り口も穏やかでありながら力強くて惹きつけられる。


それで、sensorimotor contingencyを考えれば、
運動だけとか知覚だけと切るような見方は短絡的で
むしろ一連のものとしてこそ考えるべきであって、
もしそうであるならば小脳も例外ではないのかも。
そもそも、coordinationするにはsensory feedbackが
必要で、感覚抜きで話は閉じないのだから当然か。
と思ったけれどそんなに単純な話じゃなかったのかな。
進化的な視点なども入っていたのでもっと複雑そう。


お昼はお弁当。でも今度はスクールの方から出される
お弁当で、しかしこれが意外に美味しい。お味噌汁付。

  • Dr. Ryuichi Shigemoto (National Institute for Physiological Sciences)
    Glutamate receptors: Their localization, function, and roles in physiological learning processes

レセプター、イオンチャンネルレベルのお話。
凍結割断レプリカ免疫標識法という独創的な
手法を発展させて、電顕で直接それらを見る。
金粒子で標識できるというのがすごかった。

  • Dr. Nelson Spruston (Northwestern University)
    Mechanisms of dendritic integration and plasticity

樹状突起の場所ごとにちがうシナプス可塑性。
LTP/LTDやバックプロパゲーションなど。


今夜はバンケット。立食形式でパーティー
まだしゃべったことない人がいたら紹介しますよ、
と講義のとき隣になったOさんが親切にいろいろ
連れて紹介してくださったので、ほとんど全員
とお話することができたと思う。本当に感謝。
デザートまでぱくぱく食べて飲んで大満足。


それから、ポスターセッション第二部開始。
昨日たくさん説明したから暇かと思いきや、
全然そんなことなくて、大勢来てくれた。
Poster session by Dr. Sakumura
Coordinatorの方が写真を撮ってくださった。


いろいろ議論をしながら、統計が専門のNさんと
ちょうど同学年ということもあったりしてか、
お互いのポスターを紹介しあった後も引き続き
長々と話し込んでしまい、向こうの方では
宴会が始まっている気配がするのも何のその、
立ち続けながら研究のことやら何やらずっと
しゃべっていたら、気付いたら1時だった。
バンケットが始まったのが18:30でそれから何時に
ポスターの前に立ち始めたのか分からないけれど、
少なくとも4、5時間はノンストップで立ち話。
さすがに気付いたら二人ともぐったりしていて、
足がぷるぷるするので、座って飲みながら
話せばよかったですね、と言って笑いあった。
次の日の午前中、Nさんは見あたらなかった。