ネズミはひどく喉が渇いていた

スプリングスクール最終日。
朝食ビュッフェでどこに座ろうかと思って
見渡したらDさんが一人でいらしたので
その前の席に歩み寄り、ここいいですか?
と言いながら答えを聞く前に座り込んだ。
それから、研究室のこととか研究の方針とか
いろいろ根掘り葉掘り聞いてお話してみた。


他のラボでは作業を分担しているところが
多いけれど、一人で全部やるのだそうだ。
行動実験もして、スライス標本も作って、
顕微鏡観察もして、データを取って解析して、
モデルを作ってシミュレーションまで全部、
自分ひとりでできるように訓練したそうだ。
そうすると結果的に、他の人の作業待ちなど
無駄な時間がなくなって効率性が上がる。
その代わり自分が手を動かさないと進まない。


どこかと共同研究などして、自分が特化した
専門的な作業だけをするのもひとつの方法。
でも、広い視野を持った人がいないと
きっとどこかで行き詰まったりするはずで、
全体を俯瞰できるようにするのはすごい。
そのかわり、なんでも自分でできるように
心掛けるのは並大抵の努力じゃないと思う。


Dさんはおしゃれで、服はいつも寺町で
買いそろえるのだそうだ。センスもいい。
毎年、スクールの空き時間に観光ツアーを
主催してくださるそうだけれど、今年は
残念ながら予定が押して時間がなかった。


チャックアウトしてから講義の部屋へ
荷物を持って移動して、着席する。

  • Dr. Andreas Schaefer (Max-Planck Institute)
    Cellular mechanisms regulating behaviour:
    Inhibition in the olfactory bulb and fast odor discrimination in mice

マウスの嗅覚で匂い弁別と側抑制の話。
自分が予習会で担当した論文の著者の講義、
というだけあって、一番よく話が分かった。
疑問に思っていたところをたどたどしく質問したら、
それはgood questionだと褒められて、答えてくれた。
喉が渇いたので、報酬の出ない試行ではパスを選んだ。
でも動物がその行動を取った本当の理由はわからない。
だから、行動主義という立場があるのだった。
でも、分かりやすさのため擬人化して説明するときに、
それはどれくらい真実を言い当てているんだろう?


マウスがconfidenceに従って行動しているという
報告がNatureにあった。マウスはメタ認知するのか。
Kepecs A, Uchida N, Zariwala HA, Mainen ZF (2008)
Neural correlates, computation and behavioural impact of decision confidence.
Nature 455:227-231. (PDF)(Suppl PDF
あ、この著者のUchida & Mainenのグループは
どこかで見たぞと思ったら、前回の日記にも登場した
まさにDr. Schaeferのライバルグループじゃないか。


この辺りのことは朧気ながらやけに記憶に残っている、
と思ってググったら自分のブログ(これ)が引っかかった。
http://d.hatena.ne.jp/openlimit/20090925
発散気味ながら、すごいたくさんレビューしてた。
すごいぞ自分、と言いそうになった。というか、
だけどタイトルだけじゃなくて中身読まないと。


何をしてメタ認知の成立と見なすのか、
という問題はとてもおもしろいと思う。
メタ認知の部分集合が自己認知なのかな。
Self-recognitionをGallupの発見したように
mirrorを使って定義するなら、それよりもっと
広いクラスを定めるなら何を使えばいい?
「内面を写す鏡」はどんなものだろうか。


話が逸れたので戻すと、マウス匂い弁別の嗅覚系。
これから行く行く、集団の中での実験をやりたいと
おっしゃっていたけれど、Hさんが質問したように
いろんな匂い(background noise)が混ざった中で
匂い弁別をするという自然な状況ではどうなるのか。
ありとあらゆる化合物の複雑な組み合わせの中で
特定の匂いを弁別するのは大変な計算だと思う。
でもたぶんそれができる、というのがすごい。
組み合わせ爆発を回避するような計算論があって、
それが神経回路でも実装されているんだろうな。


スクールの終わり方はわりとあっさりしていた。
近くの町屋風、中はモダンなお店でランチして
錦市場あたりをぶらぶらしてから、どこに行こうか
迷って、すごく久しぶりに植物園に行ってみた。
Flowers
温室の中に花が満開で、それはすばらしかった。
外では梅が咲いていて、近くに水琴窟があって
地面から出た竹筒に耳をそっと近付けると、
しずかに水の滴る透明な音が響いていた。


帰ってから祖父母のお見舞いに行ったら、
おばあちゃんが鼻血が止まらないと言って
横になっていて、すやすや寝息を立てていた。
そっとしていたのに、だいぶ経ってから、
おじいちゃんが、おい、そろそろ起きろと
起こしてしまったので、枕元に立っていた
僕の方を見て驚き、叔父さんの名前を呼んだ。
連絡しないで行ったので、びっくりしていた。
顔が似ているから、寝ぼけていて見まちがえた
のだと思っていたのに、後で母に聞いたら
ちょっと太って顔がふっくらしたからますます
似てきたのだろうと言う。そうだったのか。


この1週間ばかり、毎日せっせとよく食べ
早起きして朝からビュッフェで山盛り食べ、
お腹がたるんできた。これが世に言う、いや。
まだ間に合うはずだから、運動しなければ。
毎日英語のレクチャーでたぶんストレスもあり、
それを補償するかのように食べ過ぎだった。
だけど、体型以外にも確実に自分は変わった。
いろんな人と話して、気付いたこともあるし、
まわりがよく見えるようになった気がする。
それになにより毎日楽しかった。ごちそうさま。


このスプリングスクールをずっと忘れない。