あも言われぬ

あも」という名の和菓子をおやつに食べた。聞けば、
滋賀は大津の叶匠寿庵(かのうしょうじゅあん)の作とや。
によれば、古来より宮仕えの女房たちの遣った言葉で
あもというのはお餅という意味だそうだ。
中にとろっとしたお餅の入った大粒の小豆の羊羹で美味い。

  • 寿司が おすもじ
  • 香物が おくうのもの
  • 豆腐が おかべ
  • 饅頭が おまん  そして 
  • 餅が  あも

に載ってた女房言葉のいくつか。


語頭に「お」が付くものと、語尾に「もじ」の付くパターン
が多くて、後者は文字詞(もじことば)と言う。

文字詞には何らかの理由ではっきり言うのをはばかる言葉や、
特別に思い入れのある言葉などが選ばれているような気がする。

全体的に、食べ物関係が多いようだが、食べ物は露骨に言わず、
文字詞でちょっとおぼろげに言うのが上品だったのかもしれない。

言葉の虫メガネ 第一回 もじことば・・文字詞織田道代


食べることに関しては、とりわけ意識を遣ったに違いない。
甘いものであればなおさら。それは今も昔も変わらず。


モチで思い出したのは、古文で習った「ちごのそらね」。

今は昔、比叡の山に児ありけり。僧たち、宵のつれづれに、
「いざ、かいもちひせむ。」と言ひけるを、この児、心寄せに聞きけり。
さりとて、しいださむを待ちて寝ざらむも、わろかりなむと思ひて、
片方に寄りて、寝たるよしにて、いで来るを待ちけるに、
すでにしいだしたるさまにて、ひしめき合ひたり。
この児、定めて驚かさむずらむと待ちゐたるに、僧の、
「もの申しさぶらはん。驚かせたまへ。」と言ふを、うれしとは
思へども、ただ一度にいらへんも、待ちけるかともぞ思ふとて、
今一声呼ばれていらへむと、念じて寝たるほどに、
「や、な起こしたてまつりそ。幼き人は寝入りたまひにけり。」
と言ふ声のしければ、あなわびしと思ひて、今一度起こせかしと、
思ひ寝に聞けば、 ひしひしとただ食ひに食ふ音のしければ、
ずちなくて、無期ののちに、「えい。」といらへたりければ、
僧たち笑ふことかぎりなし。

児のそら寝


変な意地で食べたいのを我慢しつつ狸寝入りを続ける
児の内心を慮ると、読んでるこっちまで切なくなる。
お餅の話で胸を締めつけられるなんてばかばかしい?
急いで餅をのどにつまらせたら元も子もないけれど、
食い意地を張るなら体裁ばかり気にしないに限る。
多少お行儀が悪くても、ほおばるのは幸せなこと。


昔、誕生日に甘味処でスペシャルあんみつを頼んだ。
メニューに書かれていたうたい文句が忘れられない。

それはもうランチ状態。ため息を吐く前に一気にどうぞ。

極楽とはこのことかと、あわててため息を飲み込んだ。