報われざるエリシオのために

すごいタイトルを思いつくものだ、と感心。
解説で石田衣良もやっぱり感嘆している。
気障と言えばそうで、気取ってるけど、
大崎善生だからその雰囲気で書ける。


たぶん、夏くらいから読もうとしていたけれど、
何度も中断して、何度も忘れていたのだけど、
ようやく、短編集『九月の四分の一』を、
今度こそ一気に読んでみた。


男の側から見た、喪失のアンソロジー
などとさらりとは片付けられないものがある。
穏やかな流れの中に、突如、乱れを生み出し、
気持ちの良いわだかまりとして余韻を残す、
そういう書き方が上手い作家だと思う。


ドゥマゴというのが、サルトルが通ったという
パリで有名なカフェの名前なんだと初めて知った。
控えめな主人公は、そこから三軒下ったカフェに入る。
ユーゴーが世界一豪華な広場であると賞賛したという、
ベルギーにはグランプラスという広場がある。


これを読んだら行った気になるとは言わないけれど、
そういう場所を派手だからという理由からでなく、
さりげなく舞台に選べるセンスはなんかいいな。
もちろん、作家自身が取材旅行に行ったのかもで、
それならそれで、自分の目で見たものをうまく
そっと活かせる、確かな技術というと変だけれど。


表題作でもある「九月の四分の一」は、
ミステリーとしても秀逸で、ドキリとする。
人が死んだり、密室のからくりなんかなくても、
揺さぶれるものが作れるって、素敵。